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ダービー キューピッド図クリーマー(1775-77年頃)
A Derby Creamer Decorated with a Cupid C.1775-77



 チェルシー・ダービー期のクリーマー。縦型で下部が丸くふくらんでおり、シンプルなループ型取っ手が付けられている。装飾は、中央の楕円枠を除いて全体が金彩の斜めのストライプで覆われている。楕円枠内には紫系の単色で、雲の上に立つキューピッドが描かれている。キューピッドは右手に松明を、左手にはりんごを持っている(どちらもキューピッドに関連する物)。また、金彩ストライプの中に半ば隠れるようにして、同じ紫系の色で鳥が何か所かに描かれている。なお、金彩の引き方はあまり丁寧ではなく、中央の枠に関しても、他の作例では一般に見られる金彩上に施される文様が、本作品には見られない。

 キューピッド図については、ダービー(D2-13)ともダービー(D2-54)とも描き方が異なっているように見える。チェルシー・ダービー期におけるキューピッド図は、特定の絵付師のみが描いたわけではないのであろう。

 本作品は単品で購入したものであるが、それ以前にBonhamsのオークションで他の作品と一緒に'solitaire set'(ティーポット、砂糖、クリーム、C/S及びトレイ)として販売された中の一点だと思われる。
https://www.bonhams.com/auction/20673/lot/95/a-chelsea-derby-solitaire-set-circa-1780-85/

 本クリーマーにはマークはないが、このセットの砂糖入れには「金の錨」マークが、トレイには「金の錨とD」マークが記されていたとのことである。この2つのマークは使用された場所が異なる(前者はチェルシー、後者はダービーで用いられたと考えられている(ダービーのマーク一覧(2)参照))ことに加え、「金の錨」マークは写真で見る限りその描き方に疑問がある。「金の錨とD」マークが用いられたのは1771/72-77年頃であるが、一方で、当時のダービーのオークションでこのようなキューピッドと金彩ストライプの作品が登場するのは、下記のとおり1780年代に入ってからである。実際に、同様の図柄で1777-84年頃に使用された「青い王冠とD」マークが記された作品も知られている。したがって、本作品の製造年代に関しては、「金の錨とD」マークが使用された期間の中でも終わりに近い方だと考えるのが妥当だと思われる。

1780年4月
 - A beautiful dejune, enamel'd with Cupids, and striped with gold 2l. 15s.

1783年5月
 - A pair of very beautiful caudle or cabinet cups, covers and stands enamell'd in compartments, with rose coloured cupids and richly finished with burnished gold stripes 2l. 19s., Mrs. Christie

1785年5月
 - A pair of very beautiful Caudle or Cabinet Cups, enamel'd in compartments with rose coloured Cupids, richly finished with fine burnished gold stripes 2l 15s.



高さ(Ht.):8.3cm
マーク:なし
Marks:None
参照文献 (References):
-John Twitchett "Derby Porcelain" (1980) Plate 159
-H. G. Bradley "Ceramics of Derbyshire 1750-1975" Item 235
-Stephen Mitchell "The Marks on Chelsea-Derby and Early Crossed-Batons Useful Wares 1770-c.1790" Plates 15(iv) and 53(iv)
-J. E. Nightingale "Contributions Towards the History of Early English Porcelain" (Derby and Chelsea auction catalogues, April 1780, May 1783 and May 1785)

(2025年7月掲載)